取材日:8月1日
「女子が本気でサッカーに向き合える環境をつくり、固定概念を覆す」。いよいよ創部3年目を迎える今年、掲げられたスローガンは『破壊』。「女子だから、というイメージを払しょくする。サッカーはサッカーだ、と示したい」。本校男子サッカー部にて8年間指導後、女子サッカー部創部とともに指揮官へと就任した神田翔監督は不敵な笑みを浮かべる。
2021年に4人の新入部員を迎え、女子サッカー部はスタートを切った。2022年はさらに4人を迎え、部員総勢8人で大会への単独出場を果たす。同年の県選手権1回戦では合同チーム(飯山、大町岳陽、塩尻志学館、諏訪二葉、長野日大)に対し数的不利ながらも挑み、結果は2-3で敗退も延長戦までもつれ込む粘りを見せた。8人の1年生が加入した本年は、県総体2回戦で佐久長聖相手に0-11と敗戦。それでも、昨年は同校に39失点を喫したことを思えば奮闘の結果と言えるだろう。
攻撃的な「松国スタイル」を体現するため、ロジカルに原理を追求する神田監督の指導。蹴り方、ボールの止め方、どういうボールを蹴るか――。回転のかけ方ひとつも丁寧に、しかし妥協も一切しない。ハードな練習も「意味があることを教えてくれるので腑に落ちる」と、今季キャプテン宮澤美雛をはじめとする部員たちの信頼も厚い。
県内女子サッカーを支える佐久長聖、東海大諏訪、松商学園、そして松本国際。4本目の柱として長野県を担うべく、果敢な「挑戦」は始まったばかりだ。
神田翔監督 インタビュー
――女子サッカー部の創部に至った経緯を教えてください。
神田:数年前から学内で話は挙がっていました。長野県内で女子サッカーに本気で取り組める環境はまだまだ少なくて、良い選手が県外に流出していってしまう現状を変えたかったことが1つのきっかけです。
――手応えや、今後の展望などはいかがですか?
神田:やっぱり女子選手たちが本気でサッカーに向き合える環境がまだ少ないので、その先駈けになれればいいなと。県内では佐久長聖さん、東海大諏訪さん、松商学園さんに次ぐ4校目となって、他とは違った色を出していきたいと思っています。「オール長野人で長野を獲る」ことを一つの目標に掲げているので、今までだったら県外に出ていってしまっていたような選手が進学してきてくれていることには手応えを感じています。
――「松国スタイル」とはどのようなものですか?
神田:レベルとしてはまだまだですが、攻守ともに自分たちからアクションを起こしていって、自分たちがゲームを握るようなサッカーを志向しています。テクニックに目をつむって走ってごまかすようなことはせず、ボールを奪われてもすぐに取り返す、そもそも自分達が主導権を持って奪われないようにする、という姿勢で指導しています。
――「松国スタイル」を体現するために必要なものは何ですか?
神田:切り替えの意識ですね。思考を停めずに攻守の切り替えを速くする、いわゆるシームレスなサッカーです。だから連続的なトレーニングをやって、あえて間髪入れずに矢継ぎ早に指示を出しています。
――指導する上で大切にしていることは?
神田:「準備」と「情熱」です。たとえば練習予定はあらかじめ全部計画を立てておいて、練習が止まることのないように準備をして臨みます。そうすることで選手の熱量が高まったままで最大効率を引き出すことができます。その温度を保ち続けるのが「情熱」ですね。なかなか難しいですが、僕自身がサッカー指導者を選んでここに立っているのに手を抜くようでは選手はついてこないだろう、と思って背筋を伸ばしています。
――現在のチームの課題はなんですか?
神田:選手たち自身が「これだけやってきたから大丈夫」と自信を持って試合に臨めるようになりたいですね。ミスをしても良いからやり込んで、ボールロストしたときにすぐに切り替えて喰らいついていく姿勢を持ってほしい。ビビったり、仲間に遠慮したりせず、自分に自信を持ってハングリーにやっていってほしいです。
宮澤美雛キャプテン インタビュー
――入部のきっかけは?
宮澤:中学3年生の頃に県トレセン(長野県女子トレセンU15)のメンバーだったので、神田先生に声をかけてもらったんです。まだ進学先が決まっていなかったときに「女子サッカー部を作るから部員を探している」と誘われて、松本国際への進学を決めて入部しました。最初のメンバーは4人で、昨年は8人で単独チームとして大会に出ていました。
――入部して良かったと思うことは?
宮澤:全部です(笑)。神田先生に教わったことで人としても成長させてもらっているし、技術的なレベルも本当に高くなったと思います。何の練習をしていても、一つ一つ解説をしてくださるんですよ。ちゃんと意味のある練習をしてくださるので、納得感がありますし、日々上達しているのが分かります。
――かなり厳しい練習ですが、どのようにモチベーションを上げていますか?
宮澤:きついと思うことももちろんありますけど、そのぶん本当に成長できるので。教わってきた中で神田先生に対する信頼がありますし、正しいことを言ってくれているので、「きついな」と思っても飲み込んで次の練習に向けて切り替えています。神田先生は的確な教えもあるし、私たちのことを常に思ってくれているのも伝わっているので、みんなが信頼していると思います。
――チームスローガンについて教えてください。
宮澤:今年のスローガンは「破壊」です。オリエンテーションのときに神田先生が発表して、「長野県を壊していく」という。今年は部員も15人と増えたのでスタメン争いも起こってくるし、緊張感は高まっていると思います。より皆が一生懸命がんばっています。
――総体での手応えはいかがでしたか?
宮澤:優勝した佐久長聖さんと当たったんですけど、一言で言うと「上手い」です(笑)。球際とかもすごく強くて、悔しいっていうよりすごいなって感じです。
――今後の課題は何ですか?
宮澤:プレスを速くしたり、走る量を増やしたり、そういう基本的なところからだと思いました。最初のプレスを強くして、早い段階で回収していけば無駄走りをしなくていい、ってことは指導されています。声をいっぱい出して、皆でしっかり話し合ってやっていくこともそうですね。
――選手権に向けての意気込みをお願いします。
宮澤:まずは決勝に行くことです。総体は新チームが始まってすぐだったので、これからのほうがより良い状態で戦えると思います。個人的には、3年生で最後の大会なので、悔いの残らないようにがんばりたいです。
取材・撮影/佐藤春香