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「世界がどれだけ進んでいるかを見せたかった」。大島駿監督のもと、佐久長聖高校女子サッカー部は6月にスペイン遠征を敢行した。世界中からクラブが集う「MAD CUP」に参戦。世界の広さを痛感するとともに、自分たちの現在地を確かめた。

創部6年目ながら県選手権で2連覇中の強豪。学校として「世界の佐久長聖へ」と教育方針を掲げており、今回は2018年のアメリカ以来2度目の海外遠征となった。OGの毛利亜美と齋藤莉音がスペインでプレーしている縁もあり、大会に招待された形だ。

昨年に続き2度目の開催となったMAD CUP。スペインの強豪であるアトレティコ・マドリードが主催し、日本でもプレーしたフェルナンド・トーレスやダビド・ ビジャらがアンバサダーを務める。世界的強豪クラブのスカウトも訪れる舞台に、佐久長聖は2チーム編成で挑んだ。 

Aチームはグループステージを2位で通過し、上位トーナメントに進出。準々決勝で優勝チームのレアル・マドリードに0ー1と敗れた。相手は年代別の代表選手を擁する名門。シーズン終了後の進路が懸かった戦いだったといい、大島監督は「目つきが違った」と振り返る。

その中で最も違いを感じたのは、試合の進め方だ。「海外のチームは『ゲームをどう攻略するか』を考えているが、日本のチームは『プレーがなぜうまくいかなかったの か』にフォーカスしている。いわばトップダウンとボトムアップで、考え方が全く違う」と指揮官。序盤は試合を優位に進められたとしても、相手はすぐさま状況を見抜いてプランを変えてくる。25分ハーフと短い形式の中でも「プランCまで変えてきた」と明かす。

一方で、相手の指揮官は「こんなに早くプランを捨てる試合はあまりなかった」と感嘆していたといい、ゲームプランの方向性に自信を深めた。「あとはプランAをもっと磨くことと、A同士で相手がまさってきた時にプランBに変えて、その優位性を潰しにかかることが課題になる」。収穫と課題が明らかになった上で、大会後はレアル・マドリードのスタッフによる練習を体験。対戦相手からフィードバックを得る貴重な機会だった。同クラブにとっては選手をスカウトする狙いもあり、今後のステップアップにも繋がるかもしれない。

大島監督は海外で指導者研修を受けた経験もあり、「原点に戻してもらったような感覚だった」と話す。神奈川県出身で、高校時代はJリーガーも輩出している法政二高でプレー。度重なる怪我に泣かされ、不完全燃焼の3年間を過ごした。その後は指導者の道を志し、流通経済大に進学。“学生トレーナー”としてサッカー部で経験を積み、大学院2年時には総理大臣杯で日本一を味わった。

卒業後は長野県に渡り、AC長野パルセイロU-18で立ち上げから指導。関東でジュニアユース年代の監督を経て、2017年に新設された佐久長聖高女子サッカー部へ進んだ。「ここのスローガンを気に入っているし、女子サッカーを変える一つのチャンスだと思っている。新しい文化を作っていかないと、変わるものも変わらない」。学校の教育方針に則り、就任当初から世界を見据えて動き出した。2018年にはアメリカへ遠征し、2020年に創部4年目で県選手権を制覇。コロナ禍で思うように改革が進まない時期もあったが、着々と前へ進んでいる。

これまで29人のOGを輩出し、そのうち8人がサッカーで海外進出。年々モデルケースが増えることによって、選手たちの海外志向が高まっているという。「代表選手を出したいというのは考えたことがない」と言うが、世界で活躍する選手が増えれば、自ずと日本代表への道も開けてくるだろう。人材発掘のため全国でスカウトをしており、県外出身者が大半。それでも「世界で戦った選手たちが長野に帰ってきて、自分の財産を示すようなこともやってほしい」と信州サッカーの発展にも目を向ける。

チームは約1週間のスペイン遠征を経て県内でリスタートし、「やろうとする心意気が出てきている」。 3年間で育てたいのは、リーダーになる人材と求められる人材。「人に求められなくなったら終わりなので、リーダーシップが必要。それは社会でも同じだし、そのためにピッチで何を表現できるか」。世界を経験した選手たちは、きょうも夢を膨らませながらボールを追い続けている。

写真提供/大島駿監督

取材・執筆/田中紘夢