最後まで足は止まらずとも、1対1で足が届かなかった。全国高校総体(インターハイ)のサッカー男子。長野県代表・都市大塩尻は15日、熊本県代表・大津との1回戦を三国運動公園陸上競技場(福井)で迎えた。結果は1-3で初戦敗退。夏の“通過点”を経て、冬に向けて再び走り出す。
序盤はペース握るも、「想定外」の失点
いきなり優勝候補が立ちはだかった。大津は、公立ながら日本代表の植田直通(ニーム=フランス)や谷口彰悟(川崎)らを輩出した名門校だ。全国制覇の経験はないが、2014年の総体で準優勝。今大会ではU-18日本代表候補の森田大智らタレントを擁し、悲願の初優勝を狙う。
立ち向かう都市大塩尻は、2011年以来10年ぶりの出場。県大会決勝では、主要大会3連覇中の松本国際を破り、全国の扉を開いた。チームは県出身選手で構成され、際立ったタレントこそ少ないが、全員がハードワークを怠らない。この日は試合前から精力的に声を出し、決戦のホイッスルに向けて気を引き締めた。
県大会では4-4-2のシステムを敷いていたが、大津に対するスカウティングを経て3-4-2-1に変更。シャドーに183cmと長身の1年・中村玲央を抜擢し、県大会ではスタメンだった3年・髙井伸之輔をベンチに据えた。中村のポストプレーやヘッドに期待しつつ、髙井をスーパーサブとして起用することで、後半に勝負をかける狙いもあっただろう。
立ち上がりは都市大塩尻がペースを掴む。3分にCKのこぼれから、DF川原拓真がこの試合のファーストシュートを放って宣戦布告。その後は技術で勝る大津に対し、高い位置からのプレスで自由を与えない。出足の速さでセカンドボールを回収し、攻撃はシンプルに相手の背後を突く。DF北野大和のロングスローも織り交ぜながら、手数をかけずにゴール前へ迫った。
しかし、格上の大津も黙ってはいない。徐々に落ち着きを取り戻すと、ボランチの森田を中心に質の高いパスワークで翻弄。個の突破力も生かし、都市大塩尻は左サイドを起点にピッチを制圧され始めた。
北野主将は「相手は切り替えが早く、自分たちよりも前に出てきていた」と、サイドでの攻防を分析。大津はパスやドリブルだけでなく、判断や切り替えのスピードも速い。立ち上がりこそ出足で上回ったが、相手が目覚め始めると、後手に回るシーンが増えた。小松憲太監督は「もっとアラートに」としきりに指示を送るが、アフター気味のファウルも散見され、ペースを取り戻せないまま時間が過ぎていく。
すると21分、大津にCKからFW小林俊瑛のヘッドで先制された。都市大塩尻にとっては、パスやドリブルで崩されていた中、セットプレーでの失点は「想定外だった(小松監督)」。小林は191cmと長身で、セットプレーではターゲットとなる。失点後は同じ轍を踏まないよう、2人がかりでマークについた。
前半のうちに追いつくべく、左ウイングバックの和田哉太を起点にギアを上げる。和田はテンポの良いドリブルとキックの精度で、違いを生み出せる選手だ。左サイドからのクロスやCKでチャンスを演出し続けたが、精度があと一歩足らず。チームは1点ビハインドで前半を折り返した。
チャンスの後にピンチあり。差が表れた1点
後半は都市大塩尻が風上に立つ。前半は風の影響を感じなかったが、ハーフタイムに勢いが強まり、大津のゴールキックが押し戻されるほどだった。天候にも後押しされ、前半と同じく立ち上がりにペースを握る。すると6分、MF髙橋透生のクロスにファーでFW中嶋総太郎が飛び込むと、混戦からFW高木彪雅の前にボールがこぼれる。高木は1度空振るも、2度目で冷静に押し込み、ネットを揺らした。
試合後には「一度で決めたかった」と本音を漏らしたが、決めて当たり前というプレッシャーもあっただろう。それでも仕事を果たし、試合を1-1の振り出しに戻した。
同点後はさらに勢いに乗る。出足の速さで上回り、“都市大らしさ”が全開。10分には右サイドで裏に抜けた中嶋が、サポートに入った髙橋にパスを送る。髙橋はカットインから豪快に左足を振ったが、惜しくもクロスバーに阻まれた。
前半は左の和田、後半は右の髙橋が脅威になった。和田は主力を張り続けてきたが、髙橋はこれまで出場機会が少なかった選手。その鬱憤を晴らすようなプレーぶりに、小松監督も「県大会では少ししか出られなかった。そこで自覚も芽生えて良いプレーをしてくれた」とうなずいた。
両ウイングバックの活性化に伴い、ロングスローやCKの機会が増える。12分にはCKを立て続けに2本得るも、得点には至らず。平均身長が180cm未満の大津の3バックに対し、サイドからジャブを浴びせ続けたが、一筋縄ではいかなかった。
手をこまねいていると、16分に大津のカウンターが牙を剥く。前がかりになった都市大塩尻から中盤でボールを奪うと、スルーパスにDF日髙華杜が抜け出し、勝ち越し弾を奪われた。「1点目を決めて、その後に2点目を決められていれば…」という高木の言葉がすべてを物語る。チャンスとピンチは表裏一体で、ましてや相手は優勝候補。先に仕留めなければ、一瞬の隙を突かれてしまう。大津との差が如実に現れた1点だった。
25分にはゴール前で再びピンチ。一度はクロスバーに救われるも、小林にこの試合2点目を許した。その後はスーパーサブの髙井や1年生のMF高橋圭太を投入し、まずは1点を返しにかかる。小松監督の「アクションを続けろ」という指示のもと、エースの中嶋が最前線で攻守にスプリントを繰り返す。それに呼応するように全体が湧き上がり、セットプレーを中心に攻め立てたが、2点目が遠かった。
新システムと新鋭。選手権に向けて進化を
スコアは1-3。一時は同点に追いつくも、優勝候補の壁は高く、厚く、険しかった。それでも最後まで足を止めず、全国の舞台で“都市大らしさ”は存分に見せつけた。3年生だけでなく、1年生の中村も涙を流す光景から、学年を問わずチームが一体となっているのだと改めて感じさせた。
「今持っている力は全部出した」と小松監督が言えば、北野主将も「出しきれたので悔いはない」と言う。ベストは尽くしたが、勝敗を分けたのは個のレベル。この試合は互いに3-4-2-1を敷いた。同じシステムの“ミラーゲーム”では、1対1の局面が必然と増える。球際で懸命に寄せていても、個の力で剥がされるシーンは多かった。
「相手が3-4-2-1で来るか、4-4-2で来るかは分からなかった。自分たちが守る時間が長くなる中で、どうカウンターで攻めるかを踏まえての戦術だった。選手の特徴も出やすいし、うちに合っているスタイルだと思う」
小松監督の言葉通り、ウイングバックの積極性をはじめ、システムはフィットしていた。コロナ禍で合宿や遠征もままならず、限られた条件下でも最善の準備は尽くしたはず。ミラーゲームの弱点を突かれてはしまったが、裏を返せば、個のクオリティという課題が明確になった。戦術には一貫性が見られるだけに、その中で個が輝けば、さらなる進化が望める。
中村や高橋ら1年生の台頭も好材料だ。後半25分までプレーした中村について、小松監督は「フィジカルが整っていて、メンタリティも大舞台でやれるという評価だった。まだまだ荒削りな部分もあるが、このような舞台を経験してさらに成長してほしい」と期待を寄せる。
北野主将は「インターハイ(総体)は(全国高校サッカー)選手権に向けての通過点。選手権でも全国に出て、絶対に勝てるようにまた練習していきたい」と、涙ながらに力強く語った。今冬の選手権は、記念すべき第100回。メモリアルとなる大会で爪痕を残すべく、再び歩みを進める。
取材・撮影/田中紘夢